はじめに
医療業界は今、制度の転換点とテクノロジーの劇的な進化が交差する瞬間にあります。
本記事では2025年末の最新ニュースを基に、高額療養費負担増の衝撃やAI診断の最前線、相次ぐ不祥事が示唆する経営リスクを網羅的に解説します 。
多忙なビジネスパーソンや医療関係者の皆様が、最新の事実と専門的な視点を短時間で把握し、2026年の戦略を練るための一助となれば幸いです。
Kota
35歳の医療コンサルタント。とんねるめがほん運営。
9年間医療事務として外来・入院を担当。
毎月約9億円を請求していました。
現在は“医業経営コンサルタント”として活躍中。
投資もそこそこに継続中。米国株を主軸としてETFや不動産も少々投資しています。
趣味は読書・ギター・ドライブ・ダーツ。DJもたまにやります。
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制度改革と国家予算:2026年度予算案が示す医療提供体制の行方
2026年度予算案の概要が固まり、医療提供体制の根幹に関わる重要な変更が示されました。
科研費の大幅増額による研究力の強化から、患者負担のあり方を問う高額療養費制度の改定まで、国の進むべき方向性を俯瞰します。
現場の経営に直結する公的資金と負担のバランスについて考察を深めます。

若手研究者支援の拡充:科研費100億円増がもたらす未来のイノベーション
政府は2026年度の予算案において、学術研究を支える「科学研究費助成事業(科研費)」に2,479億円を計上する方針を固めました。
これは前年度から約100億円の増額となり、過去10年で最大の増加幅を記録しています。
特に注目すべきは、独創的な研究を支援する「挑戦的研究(萌芽)」に、約1,000件の若手研究者枠が新設される点です。
1件あたり最大500万円が支給され、採択枠は全体で倍増する見込みです。
この予算拡充は単なる資金援助にとどまらず、国内の医療機関における「臨床研究の質の維持」と「高度専門職の離職防止」に直結する重要な施策だと捉えています。
研究資金が潤沢になることで、意欲ある医師や研究者が国内に留まり、ひいてはそれが病院のブランド力や最先端治療の提供能力向上に寄与するためです。
病院経営層は、自院の医師がこうした公的資金を積極的に獲得できるような、事務的な申請支援体制を整備することが、長期的な競争力に繋がると考えられます。
移植医療の体制改革:藤田医科大が挑む地域主導の臓器提供モデル
これまで日本臓器移植ネットワーク(JOT)が一手に担ってきた臓器あっせん業務に、新たな展開が見られています。
藤田医科大学などが設立した新法人が、厚生労働省に対して臓器あっせん業の許可を申請しました。
許可されればJOT以外で国内初のケースとなります。
この新法人は愛知、三重、静岡など中部7県の病院を対象に、ドナー家族への説明や同意取得、臓器搬送の手配などを担う方針です。
中央集権的だった移植体制が地域分散型へとシフトすることは、現場の意思決定スピードを劇的に高める可能性があります。
これまではJOTの業務逼迫が移植拡大のボトルネックとなっていましたが、地域に密着した法人が介入することで、ドナー家族へのきめ細やかなサポートが可能になるでしょう。
対象地域の病院にとっては、移植医療に関する新たなプロトコルの構築が急務となりますが、これは地域医療における存在感を高める大きな好機でもあります。
高額療養費制度の見直し:患者負担増と医療機関が直面する経営的リスク
2026年度予算案の折衝により、医療費の自己負担上限を定める「高額療養費制度」の段階的な見直しが決定しました。
2026年8月から月々の負担上限額が最大約38%引き上げられ、全所得区分で負担が増すことになります。
例えば平均的な所得層では、負担が月約3万円上乗せされ、11万円に達するケースも想定されています。
これに対し、がん患者団体などは「生活の限界」を訴え、17万筆を超える撤回署名を提出するなど、反発も強まっています。
この制度変更は医療機関にとって「窓口未収金リスクの増大」という切実な経営課題をもたらします。
自己負担額が増えることで、高額な治療を断念する患者や、支払いが滞るケースが増える懸念があります。
病院側は、早い段階からメディカルソーシャルワーカーによるファイナンシャル・カウンセリング機能を強化し、患者が安心して治療を継続できる体制を整えるべきです。
また、診療報酬がプラス改定される一方で、患者側の「支払い負担」という視点が抜けると、地域住民からの信頼を損なう恐れがある点に留意が必要です。
医師・薬剤師の最多更新:数字の裏に潜む「地域偏在」への抜本的対策
厚生労働省の統計によると、2024年末時点の医師数は34万7,772人と過去最多を更新しました。
薬剤師も同様に増加傾向にあります。
しかし、人口10万人あたりの医師数を見ると、徳島県の345.4人に対し、地域間での格差は依然として解消されていません。
診療科別では、小児科医が増加する一方で、産婦人科・産科医は減少に転じている実態も浮き彫りになっています。
医師の「総数」の議論に終始するのではなく、各病院が直面する「診療科・地域ごとのミスマッチ」にどう対応するかが問われています。
数字上は医師が増えていても、現場の負担が減っていないのは、業務の非効率性や偏在が原因です。
経営戦略としては、働き方改革に即したタスク・シフティングの徹底や、ITを活用した遠隔診断補助の導入など、「限られた医療資源の生産性を最大化する」視点がこれまで以上に重要になります。
特に産科医の減少傾向にある地域では、近隣施設とのネットワーク構築による「面での守り」を再考する時期に来ていると言えます。
医療ITとDXの光と影:セキュリティ対策と診断AIの最前線
デジタル化は利便性をもたらす一方で、深刻なサイバー被害のリスクを露呈させています。
最新のAI診断技術が臨床の質を飛躍的に高める可能性を示す一方で、情報管理体制の強化は経営上の喫緊の課題です。
具体的な事案から、テクノロジーとどう向き合うべきかを考えます。

徳島大学病院の情報漏洩事案:今こそ問われるサイバーセキュリティへの投資
徳島大学病院において、外部からの不正アクセスにより患者や職員ら約1万8,000人分以上の個人情報が流出した可能性があることが判明しました。
不正アクセスは10月22日に確認され、院内システムに対して100回以上のログインが試みられていたほか、不審なファイルも発見されています。
流出した恐れがあるのは、7月から10月に検査を受けた患者約1万6,900人分の氏名や生年月日などで、検査結果や金融情報は含まれていませんが、職員約2000人分の部署情報なども対象となっています。
今回の事案は単なる「システムの不備」ではなく、医療機関の事業継続計画(BCP)における致命的な経営リスクとして捉えるべきだと考えます。
ハッカーの攻撃手法が高度化し、ID・パスワードを突破しようとする執拗な試行が常態化している現状では、従来型の防御壁だけでは不十分です。
AIによる未破裂脳動脈瘤の破裂予測:標準化される「客観的診断」の価値
東京慈恵会医科大学と東京理科大学の研究グループは、未破裂脳動脈瘤の将来的な破裂リスクを予測するAI「POLARIS」を開発しました。
このAIは、国内外の4機関から集めた1万1,000例を超える膨大なデータベースを機械学習しており、2年以内の破裂リスクを高い精度で予測します。
特に、従来の評価指標を上回る予測性能を示しただけでなく、これまで判断が難しかった10mm以下の小型の瘤に対しても、高い感度で予測が可能であることを確認しています。
この技術の社会実装は、医師の経験や主観に依存していた治療方針決定を「データに基づく標準化された医療」へと進化させる大きな契機になると確信しています。
特に健診や脳ドックの現場において、患者に客観的な数値でリスクを示すことができれば、手術の必要性や経過観察の納得感を飛躍的に高めることができます。
異業種連携による健康見守り:スキー場運営企業と病院が拓くPHRの可能性
福島県猪苗代町でスキー場を運営するDMC aizuが、医療機関と連携して利用者の日常的な健康状態をモニタリングする新事業を開始します。
専用のスマートウォッチとアプリを活用し、心拍数や血圧などのデータを自動収集して提携病院と共有し、異常値が確認された場合には速やかに受診を促す仕組みです。
2026年1月から月額7,800円でサービスを開始し、竹田綜合病院や福島医大の専門家とも連携して全国展開を目指しています 。
これは病院が「来院した患者を待つ」スタイルから、デジタル技術を介して「地域住民の生活導線に踏み込む」スタイルへの転換を象徴する事例だと評価しています。
スキー場というレジャー接点を持つ企業が窓口となることで、これまで医療から遠かった層を予防医療のサイクルに取り込む効果が期待できます。
病院経営のリアル:赤字・再編・ガバナンスへの処方箋
8割を超える公立病院が赤字という厳しい現実の中、生き残りをかけた再編やリニューアルの動きが加速しています。
深刻な人材不足や内部ガバナンスの欠如といった組織の内なる課題に焦点を当て、持続可能な経営基盤をいかに構築すべきか、現場の視点から探ります 。

JR札幌病院の過大受給不正:組織的隠蔽を防ぐためのガバナンス再構築
特定保健指導の実施人数を水増しし、15年以上にわたって健保組合から費用を過大受給していた事実が明らかになりました。
内部告発によって発覚したこの不正は、実際に指導を行っていない社員を実績に含めるなど、組織的な虚偽報告が常態化していた疑いがあります。
この影響で、国の補助金も不適切に受給されていた可能性が高く、返還請求や刑事罰に発展するリスクを孕んでいます。
この事案は単なる事務的ミスではなく、医療機関としての倫理観とガバナンスが長期にわたり麻痺していたことを示しています。
利益の積み増しを優先するあまり、虚偽報告を是正できない組織文化が根付いていた点は深刻です。
経営陣は、数値目標の妥当性を再検証するとともに、不都合な真実がトップに届く「実効性のある内部通報制度」の再整備を急がなければ、一度失った社会的信頼を取り戻すことは困難です。
岡山県の深刻な人材不足調査:給与改善と「選ばれる病院」への脱皮
岡山県内の病院・診療所を対象とした調査で、管理者の約9割が「人材不足」に直面している実態が浮き彫りになりました。
特に看護師不足が顕著であり、人手不足の主な原因として給与や福利厚生への不満、労働環境の厳しさが挙げられています。
不足が深刻化すれば、診療の質の低下や医療事故のリスクが高まると多くの管理者が危機感を募らせています。
もはや「募集を出せば人が来る」時代は完全に終焉しました。
現在の採用市場では、他院との賃金格差だけでなく、「ここで働くことで得られるキャリア」の明示が欠かせません。
診療報酬が公定価格である以上、給与アップには限界がありますが、IT活用による業務効率化を「労働時間の短縮」や「付加価値の高い業務へのシフト」に還元し、職員のエンゲージメントを高める戦略的な投資が、人材確保の唯一の突破口となります。
慈恵医大第三病院のリニューアル:「つなぐ医療」に見る都市型病院の生存戦略
老朽化に伴い新本館棟を建設した東京慈恵会医科大学附属第三病院は、2026年1月に「東京慈恵会医科大学西部医療センター」へと名称を改め、新たなスタートを切ります。
今回のリニューアルでは、個室数を大幅に増やし、急性期から在宅・介護までを切れ目なく繋ぐ「つなぐ医療」をコンセプトに掲げています。
新たに脳卒中センターや緩和ケア病棟を整備し、地域拠点としての機能を強化する方針です。
名称変更を伴うリニューアルは、単なる建て替えではなく「病院ブランドの再定義」としての性格が強いものです。
特にアメニティ面での強化(=個室の大幅増)は、患者のプライバシーニーズに応えるだけでなく、差額ベッド代の確保による収益構造の改善も意図されています。
大学病院としての高度医療提供と、地域密着型のケアをどう両立させるか、そのバランス感覚が今後の都市型病院のモデルケースとなるでしょう。
南砺市の病院再編と住民対話:地域医療の維持に向けた合意形成のあり方
富山県南砺市では、2つの公立病院を「急性期」と「回復期」に機能分化する再編案が進められていますが、住民からは1万人を超える反対署名が提出されています。
市側は広報誌などを活用し、再編の必要性について丁寧な説明を行うとしていますが、議会からも時期尚早との異論が出るなど、合意形成の難しさが露呈しています。
この問題の本質は「経営の効率化」と「住民の安心感」の衝突にあります。
住民にとって「手術ができなくなる病院」への再編は、医療の衰退と映りがちです。
しかし、限られた医療リソースを分散させ続けることは、結果的に医療の質の低下を招きます。市は単に再編の必要性を訴えるだけでなく、再編後の「救急搬送体制の強化」や「専門医による巡回診療」など、住民が感じる具体的な不安に対する対案をセットで提示すべきです。
福島医大の総合支援センター:循環器病対策における「切れ目ないサポート」の実装
福島医大病院は、脳卒中や心臓病などの循環器病に対する一貫した支援体制を構築するため、「脳卒中・心臓病等総合支援センター」を開設しました。
多職種が連携し、予防から急性期治療、リハビリ、仕事復帰に至るまでをサポートするこのセンターは、地域医療機関や薬局、介護施設とのネットワークの中核を担うことを目指しています。
こうした「疾患別」かつ「フェーズ横断的」な支援拠点の設置は、今後の高度専門医療機関が目指すべき標準的な姿です。
これまでは治療が済めば「紹介元へ戻す」だけになりがちでしたが、退院後の生活再建まで踏み込むことで、再発率の低下や生活の質の向上に寄与します。
これは、地域全体での医療費最適化にもつながり、病院としての社会的評価を高める結果となります。
新潟県立病院の経営危機:補助金頼みを脱却する「持続可能な地域医療」の姿
新潟県立病院の経営は依然として厳しく、2025年度も約38億円の赤字が見込まれていますが、国の補助金活用により運転資金の枯渇は辛うじて回避できる見通しです。
しかし、医師確保が困難な地域での病床削減や分娩休止方針に対しては、地域住民や議員から「生死に関わる事態」との悲鳴が上がっており、議論が紛糾しています。
補助金による延命は一時しのぎに過ぎず、今の経営計画は「破綻の先送りに」なっていないかという厳しい視点が必要です。
特に産科の休止などは、地域コミュニティそのものの存続に関わる問題です。
もはや自前主義で全機能を維持することは不可能なフェーズに来ています。
周辺の公立・民間病院との徹底した機能分担や、デジタル技術を活用した遠隔医療の導入など、これまでの延長線上にない大胆な「地域医療の再設計」を、県民を巻き込んで決断すべき時です。
次世代医療と技術革新:現場を変える新たな治療の選択肢
老化細胞の除去や転移がんへのウイルス療法など、これまでの常識を覆す革新的な技術が実用化へと近づいています。
次世代の画像診断装置や手術支援ロボットが現場にもたらす付加価値を検証し、先端技術の導入が病院経営の競争力をどう左右するかを展望します。

老化細胞除去の薬剤開発:京都大が挑む「加齢」を治療対象とする未来
京都大学の研究グループは、加齢に伴い蓄積して疾患の原因となる「老化細胞」を選択的に除去する新たな薬剤を開発しました。
研究では、老化細胞内で2種類のタンパク質が結合することで老化が進行する仕組みを解明し、既存の抗がん剤をベースにその結合を阻害する薬剤を創出しました。
高齢マウスを用いた実験では、副作用を抑えつつ筋力や肝臓・腎臓の機能が改善したほか、難病である特発性肺線維症の進行抑制も確認されています。
今後はヒトへの臨床応用を進め、身体機能低下の防止を目指す方針です 。
この研究は「加齢は生理現象ではなく、治療可能な疾患である」というパラダイムシフトを加速させるものだと考えています。
もし将来的に老化細胞の除去が一般的な予防医療として確立されれば、健康寿命が飛躍的に延伸し、現在の介護・社会保障制度の前提が根底から覆る可能性があります。
医療機関にとっては、発症後の治療から「生物学的な若返り」による予防へと、収益構造やサービスモデルを再設計する長期的な視点が求められます。
フォトンカウンティングCTの初導入:低被ばく・高精細診断が変容させる急性期医療
大阪市の淀川キリスト教病院は、次世代の画像診断装置であるシングルソース・フォトンカウンティングCT「NAEOTOM Alpha Prime」を国内で初めて導入することを決定しました。
この装置は、X線の光子を直接電気信号に変換して計測することで、ノイズを排除した極めて高精細な画像を取得できるのが特徴です。
低被ばくでありながら、解剖学的な詳細情報や機能的な情報を同時に得られるため、循環器やがん診療、小児領域など多岐にわたる分野で診断精度が向上します。
こうした最先端の診断インフラをいち早く導入することは、急性期病院としての「診断能力の高さ」を地域に知らしめる強力なブランディング戦略になると確信しています。
特に1日100件以上の検査に対応可能な処理能力と、AIによる診断支援機能の統合は、人手不足が懸念される放射線部門の業務効率化と診断の質向上を両立させる現実的な解決策です。
高額な投資ではありますが、正確な診断による「治療期間の短縮」という価値を患者に提供できる点は、競争優位性を高める大きな武器になるでしょう。
転移がんへのウイルス療法:鳥取大発イノベーションの実用化に向けた課題
鳥取大学の中村貴史教授らの研究グループは、投与部位だけでなく転移がんに対しても高い治療効果を発揮する次世代がん治療用ウイルス「FUVAC121」を開発しました。
天然痘ワクチン由来のウイルスを改良し、がん細胞のみを破壊しながら転移先にも作用する遺伝子を発生させる仕組みを構築しています。
マウス実験では、一方の腫瘍に投与しただけで両側の腫瘍が消失する高い効果が確認されました。
実用化に向けて台湾の製造受託企業と提携し、2029年ごろの臨床試験開始を目指しています。
臨床医が恐れる「転移」を直接のターゲットにしたこの技術は、がん治療の終末期の概念を大きく変える可能性を秘めていると見ています。
大学発の技術を迅速に実用化するために、海外の製造受託企業と戦略的に連携する手法は、国内の創薬エコシステムの脆弱性を補う優れた判断です。
病院経営の視点からは、こうした先進的なウイルス療法を安全に提供するための専用病床や、バイオハザード対策を施した管理体制の整備が、将来的な差別化要因として浮上してくるでしょう。
福岡大学病院の単孔式ロボット:患者負担を最小限に抑える「低侵襲手術」の普及
福岡大学病院は、胃がんや子宮筋腫などの腹腔鏡手術に使用する最新の手術支援ロボット「単孔式ロボット」を導入しました。
従来の腹腔鏡手術では4つの穴を開ける必要がありましたが、このシステムは1つの穴(=単孔)ですべての器具とカメラを操作できるため、傷跡が目立たず、術後の痛みも大幅に軽減されます。
国内で20例目、九州・沖縄では2例目の導入事例となります。
この技術導入は「患者の早期社会復帰」を重視する現代の医療ニーズに完璧に合致しています。
入院期間の短縮は病院の病床回転率を高め、結果として収益性の向上に寄与します。
また、傷跡が小さいという審美的な利点は、若年層や働く世代の患者に対する強力な訴求力となります。
ただし、ロボット手術は高額な保守費用や消耗品費が発生するため、どの術式でいかに症例数を稼ぎ、投資を回収するかという緻密な経営シミュレーションが不可欠です。
新潟大学の脳科学拠点:産学官連携で加速する社会実装への取り組み
新潟大学は、脳科学の研究と社会共創を目的とした新たな施設「脳といのちのイノベーションハブ」を開所しました。
施設には、脳を-80℃で冷凍保存するフリーザーや膨大な脳標本が備えられ、国内外の研究機関や企業との共同研究を推進します。
基礎医学と臨床医学を融合させ、ひとの脳を扱う世界的な研究拠点としての地位確立を目指しており、2026年2月からの本格運用を予定しています。
大学内に企業が入居して「出口」を見据えた研究を行う体制は、研究成果を単なる論文に終わらせず、実用的な診断・治療技術へと昇華させる理想的な形だと評価しています。
特に認知症などの加齢性脳疾患が社会課題となる中、こうした拠点が創出するデータや技術は、製薬会社やIT企業にとって極めて高い価値を持ちます。
大学側はこれをきっかけに自立的な財政基盤を築き、病院側はその最新の知見を臨床現場へ迅速に還元する、「研究・教育・臨床」の好循環を生み出すことが期待されます。
経済・グローバル視点:マクロデータから見る医療崩壊のリスク
日本国内の課題は、世界的なヘルスケアトレンドや近隣諸国の医師不足問題とも無縁ではありません。
マクロデータが示す医療崩壊のリスクを直視し、AIによる業務効率化やセルフケアへのシフトを通じた、これからの時代の抜本的な解決策の必要性を検討します。
高額療養費増への反対運動:物価高騰下の患者負担と現役世代の危機感
医療費の自己負担に上限を設ける高額療養費制度の見直しを巡り、負担増の撤回を求めるオンライン署名が約17万3,000筆に達し、厚生労働省に提出されました。
政府は2026年8月から段階的に上限額を引き上げ、現在の所得区分をさらに細分化する方針を示しています。
署名賛同者の約7割が20代から50代の現役世代で占められており、実質賃金が低下する中での負担増に対して強い不安が寄せられています。
この問題は単なる「一部の重症患者」の課題ではなく、全世代にとってのセーフティネットの揺らぎであると捉えるべきです。
現役世代がこれほど敏感に反応しているのは、自身や家族がいつ「当事者」になるか分からないというリスクを現実的に感じている証左です。
病院経営の視点からは、窓口での支払額増加に伴う督促業務の激化が予想されるため、決済手段の多様化や分割払いの相談体制など、患者の資金繰りに寄り添うソフト面の対応がこれまで以上に重要になります。
公立病院の8割が赤字という現実:都市部ほど高い「破綻リスク」をどう回避するか
2024年度の公立病院の赤字総額は過去最大の3,952億円に達し、赤字病院の割合も83%と過去最悪を更新しました。
特に、土地代や人件費が高い首都圏などの都市部において経営が逼迫する傾向が顕著です。
診療報酬が全国一律の公定価格であるため、コストが突出して高い都市部の公立病院ほど、診療単価を上げられず赤字が常態化し、将来的な破綻リスクを背負っている実態があります。
もはや「公立だから潰れない」という神話は通用しないフェーズに入ったと言わざるを得ません。
都市部の病院は、一律の価格体系の中でいかに高付加価値な医療を提供し、補助金に依存しない自立した収益構造を築くかが問われています。
また、不採算部門の維持を自治体からの負担金だけで補填し続けることには限界があり、周辺の民間病院との役割分担を「競合」から「協調」へと切り替える戦略的な再編が急務です。
テクノロジーが拓く未来:AIによる臨床記録とグローバルな診断支援
世界に目を向けると、ブラジルの研究チームがAIを搭載した携帯型の全血球計算装置を開発し、従来の大型装置の10分の1以下のコストで同等の精度を実現しています。
また米国では、音声から診療録を自動作成するAIツール「DAX Copilot」の評価が行われ、正確性・徹底性ともに高い評価を得ており、医師の燃え尽き症候群を防止する有力な手段として期待されています。
こうした「低コスト・高効率」を実現するデジタル技術こそが、リソースの限られた日本の地域医療を救う鍵になると確信しています。
大型・高額な設備を全ての病院に備えるのではなく、ポータブル機器やAIを駆使して「どこでも専門医レベルの診断ができる」環境を構築することが、医師不足や偏在問題を解決する現実解となります。
医療倫理と社会的責任:信頼される組織への再生に向けて
医療機関にとって信頼は最大の資産ですが、それは一瞬の不祥事で崩れ去る危うさを孕んでいます。
SNSへの不適切投稿や法令違反の疑いといった事案は、個人のモラルだけでなく、組織の管理体制そのものを問うています。
倫理遵守を経営の根幹に据えるための再発防止策を提言します。

看護師のSNS不適切投稿:個人のモラルと組織の「情報ガバナンス」
岐阜県の大垣市民病院にて、看護師が手術室に私用のタブレットを持ち込み、無断で撮影した患者の臓器写真をインスタグラムに投稿していたことが発覚しました。
当該の看護師は、2025年9月ごろに撮影を行い、「勉強のためであり友人らに見てもらいたかった」と動機を説明しています。
写真から個人が特定される情報は含まれていなかったものの、病院側は医療従事者として倫理上不適切な行為であったとし、口頭注意を行いました。
今回の事案は個人のリテラシー不足に帰結させるべきではなく、病院全体の「情報持ち出し管理」の実効性が問われる深刻な問題だと捉えています。
手術室という極めて秘匿性の高い空間に私用デバイスを持ち込める環境自体が、組織的なガバナンスの欠如を示唆しているためです。
患者が麻酔下で意識のない状態にある中、その尊厳を守るべき立場にある医療職が、自身の承認欲求のためにその権利を侵害した事実は、地域住民との信頼関係に計り知れない打撃を与えます。
単なる注意喚起にとどまらず、物理的なデバイス制限の再構築と、臨床的好奇心が倫理の壁を越えないための踏み込んだ教育体制が必要です。
医療機器メーカーの無資格操作:法令遵守と医師の監督責任を再定義する
医療機器メーカー「ニューベイシブジャパン」の社員が、大阪府内などの病院での手術中に、資格がないにもかかわらずX線装置を操作したとして、診療放射線技師法違反の疑いで警察の家宅捜索を受けました。
同社は2024年4月から11月にかけ、関東や関西の医療機関で営業担当者4人が整形外科手術に立ち会い、装置を操作したことを認めています。
警察は、メーカー社員の刑事責任に加え、病院や執刀医側がこうした違法行為を容認・関与していたかについても慎重に捜査を進めています。
本件は医療業界で長年ささやかれてきた「メーカーへの過度な依存」という構造的課題が表面化したものだと見ています。
高度化する手術支援機器の操作を習熟したメーカー担当者が、現場の効率を優先するあまり、法的境界線を踏み越えてしまう事態は、患者の安全を蔑ろにする行為です。
病院経営層は、メーカー側への「お任せ」状態が招く法的リスクの大きさを再認識し、有資格者による適正な運用を徹底しなければなりません。
これは同時に、執刀医が術中の安全管理責任を外部の非有資格者に委ねるという、医療の本質に関わる重大な倫理的過失を問い直す機会でもあります。
おわりに
今回のニュースを振り返ると、医療機関には制度の変更に翻弄されるだけでなく、テクノロジーを主体的に取り込み、自律的なガバナンスを確立することが強く求められています。
2026年は、効率化の徹底追求と揺るぎない医療倫理の堅持、この二つのバランスを高い次元でどう両立させるかが、経営の成否を分ける重要な鍵となるでしょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


